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家に帰ったら、空き巣に入られていた。
「ただいまぁ」
鍵をかけて出たはずなのに、ドアノブが丸ごと、無理やりちぎられたみたいに外れていた。
玄関先、下駄箱が粉々にされていて、お気に入りの靴がハサミで切り裂かれていた。
リビングのソファは綿が血飛沫のように飛び出していて、テーブルは足が折られ、テレビは画面のヒビで真っ白になっていた。窓ガラスはぜんぶ内側から叩き割られていて、お気に入りの雑誌や本は、ページがびりびりに破かれていた。
そして空き巣が階段を降りてやってくる。
「おかえりなさい」
左手には大工さんみたいなツールボックスを握って、ガラス片や木屑でぼろぼろに汚れていた。
右手にぶら下がった、釘抜きのついたハンマーが、わたしの二の腕をがんと打ちつけた。わたしは、叩きつけられた勢いのままできりもみして、その場に倒れた。今ので、くっつきかけていた腕の骨がまた折れた。
「なにしてたの?」
彼女は倒れたわたしの上にのしかかって、手から零れ落ちた紙袋を拾い上げた。
「新しい服を買ってきたの。かわいいやつ」
「服?」
「うん。カナにも、似合うかなと思って」
取り出した服を、カナは両手で持ち、びりびりびりと破き始めた。すごく可愛いシャツ。襟元のストライプ模様が可愛いやつ。
「こんなのいらない! いらないいらない、いらない!」
カナはすごく憎しみを込めた表情で、一心不乱に、びりびり、びりびりと服を破き続けた。それが終わったら、もう一つの服もぐちゃぐちゃにし始めた。青いワンピース。それからカーディガン。ぜんぶ、ちいさな布切れにしてしまった。
「あーあ」
「何度言えばわかるの? ねえ、こんな服なんか買ってきて。わたしが見たいのは、おしゃれしてるちーちゃんじゃなくて、ありのままでも可愛いちーちゃんなんだよ!」
「ごめんね」
「許さない、こんなクレジットカード!」
ばき。
カードは砕けてしまった。
財布から取り出されたお札もぜんぶびりびりに破かれてしまった。
「あーあ」
カナはわたしの顔を、ぐーで思い切り殴った。
目の前がちかちかする。
それでも、何度も何度も殴られる。
「きらい、きらい、きらい、きらい、お化粧なんかしちゃって、そんなちーちゃんはちーちゃんじゃない! こんな顔いらない!」
それから、手のひらを思い切り何かで叩き潰された。
ぐにゃりとした感覚。骨が砕けた。あまりの出来事に痛覚も機能しない。
カナちゃんは泣きながら、ハンマーを振り上げて、わたしの身体を破壊していく。
そして、カナちゃんは泣きながら、わたしのまだ動いている心臓に縋り付いた。
「お願いだから、わたしの大好きなちーちゃんのままでいて」
「はぁい」
とっくに脳が壊れている。それはわたしが自分で分かっている。
でもそれでもいいのだ。
わたしが好きなカナちゃんは、わたしを壊すのが好きなのだ。わたしの家を壊して、わたしのものを壊して、わたしを壊して、そうするのが好きなのだ。それで、わたしもカナちゃんが好きだから、カナちゃんにいっぱい壊してほしい。
歪んでいるかもしれない。
だけどわたしたちは、こう見えてけっこう幸せなのだ。
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