嘘で救われる僕と、救われるという嘘 その1~2

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【その1】   柏木美琴は神棚に手を合わせると、バッグを肩に引っ掛けて玄関に向かった。  「姉さん、相変わらず信心深いね、僕なんかちっとも拝まないのに」  弟の光(ひかる)は、毎日、神棚に手を合わせてから出勤していく姉の姿を見ている。  美琴はどんなに忙しくても、毎日、出かけるとき、帰って来た時、在宅中も数時間おきに必ず、神棚を拝む。  御神酒やお供えもまめに交換して毎日掃除する。  相変わらず…相変わらず信心深いと言ったが、姉がこんなに信心深くなったのはいつからだろう?  そういう家柄?  いや、僕は全然だし…両親は…あれ?  美琴と光は郊外のアパートに二人で住んでいる。  新築のきれいなアパートで、数か月前に入居した。  「今日からここがわたしたちの家よ」  そう言う美琴と、スーツケース一つでやってきたのを覚えている。  入居した初日に、姉が買ってきたのが大きな神棚だった。  それを設置すると、中に何か納めて拝んでいた。  「神棚の中は、神様を祀ってあるから、絶対開けちゃダメよ」  姉さんは、その前からあんなに毎日拝んでたっけ?  その前?…その前って…?  「じゃあ、行ってくるわ、光、おとなしく留守番してるのよ」
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