嘘で救われる僕と、救われるという嘘 その1~2

2/31
前へ
/31ページ
次へ
 光の頭に浮かんでいた疑問は美琴の声に打ち消され、現実に引き戻された。  出ていく姉を見送ると、リビングに戻ってテレビを見る。  光は二十歳で、姉の美琴は二十七だ。  姉は毎日働きに出ているのに、光は学校にも行っていないし、働いてもいない。  その事に、とくに疑問を感じたことは無い。  たまに、少し気になるが、考えようとすると何だか眠くなってくる。  姉の美琴は弟の光を溺愛していた。  「光、あなたは毎日ここで穏やかに暮らしていればいいのよ、お姉ちゃんが何でもしてあげるから」  その言葉通り、日常的な身の回りの世話を全部してくれて、光を養うために働いて、油断しているとお風呂にも入ってきて体を洗ってくれようとする。  そんな、異常なまでに弟を好きな姉が、とびきり美しいので光もドキッとさせられることが多い。  美琴はすらりとした体つきで髪が長く、知的で落ち着いていて、その信心深さに相応しく、巫女さんのように清楚な美しい女性だった。  こんな美しい年ごろの姉の生活が、自分を中心に回ってしまっていて、全く男のいる気配も無い。  いいのかそれで、と思いながら鏡で自分を見てみる。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加