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美琴は、アパートの近くでは遠慮がちに離れて歩いているが、電車に乗って隣の街に行くと腕を組んで体を密着させてくる。
「姉さん、こんなところ人に見られたら…」
そう言ってみて、光は見られて照れるような友人や知り合いに心当たりが無いことに気付いた。
何か疑問が頭を掠めている弟の様子を見て、美琴は強引にそれを吹っ切らせるようにぎゅっと光の腕を引き寄せて胸に押し当て、引っ張っていく。
「光、あのお店行ってみようよ」
光の思考は、何かに気を逸らされるとそこで途切れてしまう。
だから何かを、突き詰めて考えたことが無い。
美琴は光の目をじっと覗き込んで、疑問の色が消えているのを確認して安心する。
「余計な事考えないで、お出かけ中はお姉ちゃんだけ見てればいいのよ」
「うん…」
そう言われると、不思議に心が安らいだ。
強引に連れていかれたカフェの席に向かい合って座る。
ストローを咥える美琴の唇を見ていると、光はその感触を知っている気がして自分の唇に指を触れてみる。
柔らかい唇と、温かい舌の感触も知っているような気がする。
なんだろう、この感じは?
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