嘘で救われる僕と、救われるという嘘 その1~2

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 小さいからインターホンに手が届かなかったのだろう。  光はドアを開けた。  「ママが、ママが!」  女の子の母親に何かあったのだろうか。  光は開け放たれた隣の部屋に入って行った。  キッチンに母親と思しき女が倒れている。  「助けて!ママを助けて!」  救急車!救急車を呼ばなければと思ったが、見回しても固定電話が無かった。  どこかに母親の携帯があるかも知れないが、置き場所の見当もつかない。  電話…そう言えば、なんで僕は二十歳にもなって電話を持たされてないんだろう?  また思考が迷路にはまりかけたとき、女の子の悲痛な叫びで現実に引き戻された。  「助けて!」  光はすっかり気が動転していたが、ひとまず状態を確認しようと、倒れている母親の頸動脈に手を触れた。  「脈はある…」  それで少し落ち着きを取り戻し、様子を観察できるようになった。  呼吸もあるし、口を開けてみても吐しゃ物は無く、窒息の恐れは無さそうだ。  何かの持病とかで、意識を失ってしまったのだろうか?  何となく、光は母親の頭に手を触れてみた。
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