ジェミノイド

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心地好(ここちよ)い朝日が照らす中、今日も入口の掃き掃除で1日が始まる。 僕は介護施設で働く職員だ。名前はナイト。と言っても本当の名前は覚えていない。ナイトはこの施設でつけてもらった名前。僕は記憶喪失なんだ。記憶喪失って、小さい頃の記憶はあったりするのが普通なんだけど、僕は何も覚えていない。だから、2年ぐらい前は言葉を発する事も出来なかった。 「ナイト、田中さんが将棋の相手してくれだって!」 「は~い!」 彼は福本さん。僕の名付け親で、この施設の館長だ。背が高く恰幅も良い。70歳ぐらいだって言っていた。記憶喪失の僕に、言葉や色々な事を教えてくれた上、ここに住み込みで働かせてくれている優しい人。 「ナイト、宜しくな」 「はい、お願いします」 将棋盤に駒を並べ挨拶を済ませると、僕達は将棋を指す。田中さんは僕に将棋を教えてくれた。もちろん、その流れで会話をするので、言葉の勉強にもなる。 「いやあ~……これは厳しいな……。参りました」 「ありがとうございました」 僕達は座ったまま御辞儀をする。 「ナイトは強くなったな。これからは、こっちが教えてもらわないといけないな」 僕は今日、初めて田中さんに勝った。介護職員と言っても、この施設には3体の介護用アンドロイドが居て、基本的に彼等がメインで介護をする。僕は普段、彼等の補助か施設利用者の相手以外する事が無いから、頭の中は将棋の事ばっかり考えているので、上達するスピードが異常に早いのだと思う。 今日、日本に居るアンドロイドの数が日本人の数を上回ったとニュースがあった。その中でも、ジェミノイドと呼ばれる、見た目だけでは人間と全く見分けのつかないアンドロイドが進化を遂げているらしい。最も素晴らしいのは、介護分野で大車輪の活躍をしてくれるという事なのだとか。いつも笑顔で力も強く、コミュニケーション能力にも優れている。しかも、ストレスを感じないというのが1番の長所かも知れない。この施設のアンドロイドもジェミノイドだ。イケメン風の2体と美女風の1体。
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