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「おっ、藤田君、遂に AI にも勝ったのか」
田中さんはテレビを見ながら独り言を言った。藤田君というのは現役中学生でありながら最強のプロ棋士の藤田有人。既にタイトルホルダーよりも格段に強いと言われていて、後々、将棋界の9タイトルを全て取るのは間違い無いという話だ。人類は、将棋でもう AI に勝てないと言われて100年以上が経つと言われる昨今、再び、人類が勝ったというのは信じられない快挙らしい。
「まあ、彼もジェミノイドなんじゃないか?」
田中さんの独り言を聞いていた福本さんが言った。
「バカな事を言っちゃあいかんよ。その疑いは、もう晴れたんだから」
福本さんが疑問に思うように、藤田君は余りにも強すぎてジェミノイド説が噂されたが、レントゲン撮影により内臓が確認された。基本的に、ジェミノイドの体の中は空洞。少し古いタイプのアンドロイドであれば、バッテリー等の機材が入っている事もある。
「どうかな。レントゲンで内臓が確認出来たからって、それだけで本当に人間と言えるのかい? 今の技術なら内臓ぐらい作れるだろう?」
「まあな。でも、人間だと思いたいじゃないか。藤田君は我々人類の誇りなんだから」
そう、藤田君は僕達人類の誇りなんだ。頭脳分野の勝負で AI に勝てるのは藤田君しかいないと言っても過言では無い。藤田君をジェミノイドだと思い、レントゲン撮影だけでは納得いかないという人達も沢山いて、他の方法で確認をしようという話も出たのだが、多数のファンによる大反対があり諦めたらしい。
その夜、僕は眠りにつこうとベッドに入った。そして、目を瞑ろうとした時だった。
「ううう……苦しい……」
田中さんの声が聞こえた。僕は異常に耳が良い。僕は飛び起きて、急いで田中さんの部屋へ向かう。
「田中さん!」
「ううう……」
「どうしました?」
「苦しい……」
「救急車呼びます」
僕は慌てて救急車を呼んだ。
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