ジェミノイド

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僕の耳に衝撃の事実が聞こえてきた。隣の部屋で、お医者さんが福本さんに小声で伝えたんだと思う。 そうだったんだ……。僕はジェミノイドだったんだ……。それなら、今まで不思議だった色々な事の辻褄が合う。記憶喪失なんかじゃなく、あの日に起動しただけだったんだ。言葉や将棋の上達するスピードが異常に早かった事や、聴力が非常に優れていた事……その他の様々な事に納得がいく。いや別に、ロボットが嫌とか、人間が良かったとかじゃないんだ。急な展開に驚いただけ。むしろ良かったじゃないか、僕がロボットだったお陰で、田中さんの命を救う事が出来たんだ。 レントゲン撮影前、5秒程度の暗闇の中、今まであった様々な記憶が高速で蘇った。真っ暗で静まり返っていた事も影響したのか、僕は何かポッカリと心に穴が空いたような感覚になっていた。恐らく、僕の体の中と同じ様に……。 ふと気付くと頬を涙が伝っていた。僕はロボットにも感情があるんだ、という事と、涙が流れる機能もあるんだ、という2つの驚きがあった。それと同時に、やっぱり本音は人間が良かったんだなあと自分の本心を理解した。 電気が点くと「終わりましたよ」と看護師さんがドアを開けた。 「ん? これは? 内臓がある?」 「えっ?!」 お医者さんが驚いて(つぶや)くと福本さんも声を上げた。 「ナイト君、ちょっと脈をとらせてくれないか?」 お医者さんは慌てて僕の左手首を右手親指でおさえた。 「ちょっと服を上げてくれないかい?」 僕は不思議に思いながら、お医者さんのジェスチャー通りに服を上げると、お医者さんは聴診器を僕の胸に当てた。 「ある……。(わず)かだが脈がある……」 「どういう事ですか?」 福本さんは驚いて尋ねる。 「分からない……。ナイト君は人間になりつつあるのかも知れない……」
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