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「……以上が、今回の調査の報告です」 「なるほどな」 「想像以上に民度が低い連中のようだ」 居並ぶ幹部クラスの上司たちの前で、調査結果の報告を終える。 ぼくは目立たないように小さくため息をつき、隣に座る上司の許可を得てから席に腰を下ろした。 「ご苦労だった。お前はもう休んでいいぞ。後は我々が話し合って決める問題だ」 「……侵略はどうなりますか?」 「我々はかからんとは思うが、思わぬ影響があるかもしれん。まぁ、当面の戦略としては延期だな……。お前はワクチン接種済みの検査済みだから大丈夫だとは思うが、部屋に戻れ」 はいはい、下っ端はさっさといなくなりますよ。 リスクのある場面では便利に使っておいて、用済みになればすぐこうやって追い払うんだから。 ぼくは将来的に昇進しても、こんな風な連中にはならないようにしようと心の中で思った。 席を立ち、一番近くのドアへと近づく。 それは音もなく開き、ぼくが外へ出ると同時に瞬時に閉まった。 防音は完璧。扉が閉まると、中の音は一切外へは聞こえなくなる。 「疲れたぁ」 ぼくは外の景色がよく見える窓に寄りかかってひとりごちた。 窓に反射して映る己の肌は、今日も健康的な緑色。外の闇に混ざり込んで、顔はよく見えない。 目の前の暗い宇宙空間には、ぽっかりと惑星が浮かんでいる。 ーーー『地球』という名の星が。 「まさか、本当にこんなに危機感がないなんてなぁ」 『人間』ってのは、もっと賢い生き物だと思っていたんだが。 勿論、ぼくが見たのはごく一部の人間だけだけだ。賢い個体だって沢山いるんだろう。 でもぼくが見てしまったのは、出逢ってしまったのは、たまたま頭の悪い人間ばかりだったということなのだろう。 ぼくは最初から、本当のことしか言っていなかった。 「地球を侵略しに来た宇宙人で、今回は偵察に来たんだ」って。 それなのに。正直なぼくのことを1番の嘘つき呼ばわりするなんて、酷い生き物だ。自分勝手な上司どもに侵略されてから、せいぜい後悔するがいい。 ーーーいつになるかは分からないけれど。 しかし、まさか侵略予定の星が。たった今、その世界中が未知のウイルスに侵されていて。この星の主たる生命である『人間』が、もしかしたら存亡の危機に立たされているかもしれないなんて。 ぼくは思いもしなかった。 ……いや、案外そうでもないのかもな。 これだけの危機でも、強かに娯楽を楽しめる連中だ。存外に強くて、しぶといのかもしれない。 ウイルスの存在を知って、下っ端のぼくを偵察に向かわせた上司たちは。身勝手ながらも、無能ではないのだろう。 さて。 あの会場では面倒なことになる前に、ポケットに入れておいた睡眠ガスのスイッチを使って切り抜けたものの。 あの後どうなったのかまでは、ぼくは知らない。 あーあー、テステス。地球語だと、これでいいのかな? ーーーあなたは、誰が本物の……または、1番の嘘つきだったと思いますか? <終>
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