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ーーー全員、お揃いになったようですね。 本日はご多忙のところ、我が『嘘つきクラブ・ライアー&ライアー』のオフ会にご参加いただき、誠にありがとうございます。 今回のゲーム『参加者』は5名様です。前方左右のテーブル席におられる皆様ですね。 そして後方、観覧席の皆様はいつもの通り『審判者』としてこのゲームをお楽しみ……もとい「厳粛に観察し思考し、真の嘘つきは誰なのかを見破っていただく」という使命がございます。何卒、よろしくお願いいたします。 それでは、改めまして。本日司会を務めさせていただきます、クラブ長の【ライアン】です。 「ネーミングが安直では?」 ※参加者の一人が思わず呟いたのを左テーブル上のマイクが拾い、会場にどっと笑いが起きる。 ーーー早速のダイレクトツッコミをくださったそちらの方。確か、初参加でいらっしゃいますね。 そう。赤のパーカーに青のジーンズ、黄色のニット帽をかぶっていらっしゃる。ちょっとふくよかな男性のあなたです。 それではあなたの【お名前】と、本日明かされるあなたの「嘘」をご紹介いただきましょう。 ※指名された人物がマイクを渡されて、座っていた椅子から立ち上がる。 「……ハンドルネーム【遥か流れ星】です。こう見えて、第304銀河系出身の宇宙人です。地球へは、来たる侵略のための偵察にやって来ました。どうぞよろしくお願いいたします」 ※同じテーブルに座っていた、ドレスのようなフリフリの服と派手な化粧の人物がケタケタと笑う。 ーーーありがとうございます。 それでは、せっかくですのでお次はお隣の綺麗なそちらの女性。 今回のオフ会参加者は男性が多くいらっしゃいますので、男女不平等とか言わないでくださいませね。希少な花を潔く愛でるのも、嘘つき男子たる嗜みの一つかと。 それでは、どうぞ。 「……ハンドルネーム【薔薇の騎士】です。こう見えて、本当は男です」 「ウッソでしょう?!」 ※小柄ながら、ピンク色のフリルたっぷりのボリュームがあるロリータ服に、これまたつけまつげバサバサのその人物。 彼女? の豊満な胸や顔をチラチラと見ていた更に隣席の男が、思わず大声を上げて椅子から立ち上がった。 「……さぁて、どうでしょうね?」 ※【薔薇の騎士】が綺麗な仕草でヒラヒラと長細い指の手を振ると。 参加者の注目が集まったのに気づいたのか、顔色を真っ赤に変えた男は、慌てて自分の席に座り直した。 ーーーさぁて、これは分からなくなってきました。 ちょうど左から順番になりますので。今し方斬新な驚きを表現されたそちらの男性、ご挨拶をどうぞ。アルマーニのダブルブレストジャケット、今年の新作でしょうか。スレンダーな体型に大変よくお似合いです。 「……! べ、別に大したものじゃない。コロナ禍で出かけることも出来なくなって、金があり余っていたから買っただけだ。 ーーーハンドルネーム【石油王の跡取り】だ。母が大学時代に中東を旅行した際、現地の大金持ちに見初められて出来た子が俺になる。正妻になることは叶わなかったが、以後も定期的に母と俺に援助をしてくれて、現在は父の経営する会社の日本法人を任されている身だ。言っておくが働いているからな!」 ※年の頃なら30過ぎ。いい歳をして父親の稼ぎで養われていると思われたくないのだろうか、そのムキになった態度が子どもっぽく、余計に嘘くさく見えた。 ※今回の嘘つきはコイツで決まりかなぁ、と『ぼく』はぼんやりと思う。 ーーーありがとうございました。 左テーブルには今回もまた、随分と「濃ゆい」皆さんが集まっておられますね。勿論、「良い意味で」申し上げております。 さて、お次はこちら。右テーブルの参加者様です。 常連の皆様には、既に有名なお二方ですが。それではよろしくお願いいたします。 「自己紹介させてもらいます! ハンドルネーム【手紙の神様】です。まんまですけど、「手紙」を司る神をやらせていただいております。やらせてとは言っても、やらせじゃありません。正真正銘の神! です。ホントですよ? 人間じゃないですよ」 ※学生服のような黒のブレザー上下を着た20歳くらいの青年が席から立ち上がると、得意げに胸を張って茶色のハンチング帽を取り、一礼してまた席に戻った。 出たわ〜、というような渇いた笑いが会場中に響く。 ーーー『神ではないことをハッキリ証明できない』という、悪魔の証明にも似た屁理屈……いえ、見事な手法で毎回嘘つき認定を免れている、大変優秀な『参加者』様です。 また司会の私から補足させていただきますと、彼は実は大変なテーブルマジックの達人でもあります。神様だからできてしまうとはご本人談ですが、ご興味のある方はこの後のフリートークタイムに目の前で披露してもらうのもよろしいかと。まさに神業と言えるほどの腕前ですよ。 ……それでは、今回最後の参加者様のご紹介に移ります。この方は『審判者』として数多くの嘘つきさんを見破ってこられた、いわば見抜きのプロ。ですが、『参加者』としては初参戦になりますね。 右テーブルのご老公。よろしくお願い申し上げます。 ※後方テーブルに【手紙の神様】と共に座っていた、小柄な老人が「どっこいしょ」という掛け声と共に立ち上がった。 「ハンドルネーム【若造り老人】じゃ。こう見えて、実年齢は25歳じゃ。ホレ、そこの二十歳そこらに見える偽物神よりも若いんじゃぞい」 「誰が偽物神だ、誰が! 失礼なんだよ、いくらマイナーとはいえ神は神だからな。ちょっとは敬えよ、若造の自称老人! たとえお前が90歳だとしたって、僕の方がよほど長く生きてるんだぞ」 「お主、怪しい新興宗教でも始めたら意外と成功しそうじゃの」 「誰がやるかそんなもん! 正統派の神はそういうのやんなくても、ちゃんと信者が増えるから!」 ※信じてくれてる人、普通にいるから! と喚き続ける【手紙の神様】をよそに、疲れたと言わんばかりに椅子にへたり込む老人。足がぷるぷる震えている。あれが嘘なら、大した演技派だ。 ーーーありがとうございました。 これまでに自己紹介頂いた通り、今回の嘘つき参加者様は 【遥か流れ星】さん。地球侵略の偵察に来た宇宙人。 【薔薇の騎士】さん。どこから見ても可憐な乙女の男性。 【石油王の跡取り】さん。中東の大金持ちの隠し子。 【手紙の神様】さん。文字通り、手紙を司る正真正銘の神。 【若造り老人】さん。かなりお年を召した感じの25歳。 以上、お間違いはないでしょうか。 ※司会のライアンのまとめに、参加者たちがそれぞれ頷いたり、親指を立てて賛同の意を示す。 ーーーそれでは早速ですがこれから『参加者』様と『審判者』様との交流フリータイムに移ります。 時間は30分。この間に誰が嘘をついているのかを『原則、会話だけで』見抜いてください。ここ重要ですよ。していいのは、お話だけ。回答が決まった方は、前方中央に置いてある箱に、横の机の紙とペンを使って嘘つきだと思われる人物の名前とそう思った理由を書いて投票してください。 この時間、両者ともお好きな方と自由にお喋りすることが可能ですが。相手からハッキリと認められた場合以外、服を脱がせたり勝手に身体を触ったりするのは厳禁です。ゲームじゃなくても、普通に犯罪行為ですからね。特に【薔薇の騎士】様狙いの『審判者』様。間違っても背後から近づいて、不意に胸に触れたりするような真似はなさいませんように。その時点で個人情報ごと外に放り出し、警察に通報します。よろしいですね? ※数人の男の舌打ちが聞こえる。まさかそんな野蛮なことを本当にやるつもりだったのだろうか。 ※フリータイム開始! という合図と同時に、観覧席にいる大勢の『審判者』たちはドヤドヤと喋りながら、気になる『参加者』のテーブルへと近づく。 それ以外には、まず相手の油断をついた質問をしようと思案している者もいる。 やれ「きっと●●が嘘つきだ」だの「いや、あからさまなのはむしろ○○だ。そうに決まっている」だのと、自信満々で喧しい。 ※当然ながら、例のコロナの影響で全員マスクをつけてはいるが。こんなに狭い範囲内で、ベラベラ喋っていて大丈夫なのだろうか。 『ぼく』は、こんな時期に大人数の集まるイベントを主催する側にも参加する人々にも、段々と不安を覚えて来た。
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