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気付けば、日もとっぶりと暮れかかっていた。
「すいません……そろそろおいとまさせていただきます」
僕が、話題の切れた隙間に差し込むと、明るい思い出に夢心地になっていた武志のお母さんは、現実に引き戻されて、また深くて昏いよどんだ目に戻った。
「ああ……引き止めちゃってごめんなさい。お見送りするわね。武志、悠君帰るからね。会えて嬉しかったねえ」
健気に、武志のお母さんは、写真に語り掛けた。
僕は、胸がざわつき、思わず目を背けた。誰に責められているわけでもないというのに。
軒先で、もう一度頭を下げて、定型的なお悔やみの言葉を繰り返し、立ち去ろうとすると、「ねえ」と武志のお母さんが引き止めた。
「ごめんね……ひとつだけ。ひとつだけ聞きたいことがあるんだけれど」
「はい」
「武志が……武志が死んだ理由……自殺した理由を、何か知らないかしら。あの子、なにも残さなかったから、なにもっ、言わなかったから」
武志のお母さんは、言葉に詰まると、堰を切ったように涙を流しながら、慟哭した。
「どうして言ってくれなかったの、そんなに言いづらいことがあったの、ってずっとそんな事ばかり考えてるの……」
崩れ落ちる彼女を、僕は支え、背中を優しく叩いた。
「すいません、僕も……なにも知らないんです」
……
……
……
嘘だった。
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