西の国のとある屋敷

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 「……噂ってつくづく」  当てにならない。  小声で呟いたのが少しだけ空間に響いて思わず口を噤んだ。  嘘かもしれない情報に踊らされた自覚はある。  だからこそたくさんの噂の中から選りすぐって、何とか本当らしいものを頼りにここまでやってきた。  けれど来てみれば今までの躊躇いやら覚悟やら決心やら恐怖やら。そんなことはひとつも必要なかったかのように、"それ" は飲食店や骨董屋などが建ち並ぶ通りの一角に平然と建っていた。  街に溶け込むその店を見つけられたのは、きっと偶然にすぎない。  異国の言葉で書かれた大きな看板の下、軒先にぶら下がった鉄製の小さな看板を見つけられなかったら、この山道をまた戻る羽目になっていた。そんなことにならなくて本当に良かった。  ──カラン、  鐘の音が鳴るような耳障りの良い音が響いて思わず肩を竦める。一瞬止めた手を離さないうちに、もう一度力を込めてその扉を押し開けた。
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