西の国のとある屋敷

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「いらっしゃい。何かお探しで?」 「描き屋(パヴェーユ)と、表に……」 「ああ、そうだ。ようこそ、我が店へ」  その落ち着いた声色は、男か女か。ヴェールのようなものを被っていて判断が難しい。幅の広いカウンターの向こうに立つシルエットは僅かに背が高い程度だ。もしかしたら向こう側は床の高さが違う可能性もある。  警戒しつつ奥へと進む。  と、その距離が最初の半分程になったところで音も無くふわりとそのヴェールは取られた。  ──男 「その様子じゃあ、だいぶ探したみたいだね。この店も知られたものだ」  純黒の髪と、薄水色の瞳。 「どれにしようか。お勧めは今君がいるそこから左に二歩進んだところにある棚の上から三段目、右から六番目のそれ」  目を細めするすると宣う男の視線の先を見遣れば、ちょうどその場所には持ち手付きの籠があった。他のは木箱だったり、布製の袋だったり、色々だ。  男を窺いながらその籠を手に取り、再びカウンターへと近づく。
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