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「これで良いんだね」
その言葉にこくりと頷く。
「言っておくけれど、この機会はたった一度しか──」
「知ってます」
それは、噂の最初に聞かされたこと。
『例の店は、一度しか迎えてくれない。なぜなら──』
「……それなら問題無い。この物語も、この先のことも。選ぶのはキミ次第だ。さあ、もういいよ」
促されるまま籠の上に掛かった黒い布を取り去れば、その中身が姿を現した。
男の顔とそれとを静かに見比べる。
「それをどうぞ。あ、お代は手を付ける前にその籠の中に入れてね。当店は先払いになります」
「……おいくらですか」
「貴方が想う分だけ。心配しなくても、後から請求したりしませんよ」
薄く笑みを浮かべるその姿にごくりと唾を飲んだ。
言われた通りのことを終えると、今度は籠の中身が掌の上に落とされる。
それをじっと見つめた。
「それでは、お気をつけて」
いってらっしゃいませ。
──口に含んだ瞬間、優しい甘さが広がると同時、世界は静かに暗転した。
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