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 高校を卒業した後、歩美はM大学に進み、真由と千夏は共にN大学へ、そして楓は美容師の専門学校に入った。  同じ大学とは言っても違う学部に行った真由と千夏はすっかり疎遠になってしまったらしい。  歩美も大学で人生初の彼氏が出来た頃から、彼女たちとメールを交わすことが減っていった。  大学二年生の秋、二人目の彼と待ち合わせていた表参道のカフェで、注文を取りに来た店員を見るなり歩美は甲高い声を上げた。 「楓じゃん! 誰かと思った!」  高校生の頃、黒髪ショートに細いフレームの眼鏡を掛けていた彼女とは別人のようだった。ゆるいウェーブの掛かったその髪には微かに緑色の艶があり、カラーコンタクトの茶色が彼女の長い睫毛を際立たせていた。カフェの制服の白いブラウスとタイトな黒いベストとスラックスが、彼女のすらりとした身体を包み込んでいる。  きれい。  歩美が同性の友だちにそんなことを思うのは初めてだった。少し放心していると、店の中央にある螺旋階段から、交際三か月に差し掛かっていた彼が現れた。青年は歩美を見つけると手を振って合図を送ったが、彼も明らかに、楓の姿に目を引かれたようだった。しかしながら、嫉妬心よりも先に歩美を襲ったのは、もう一度彼女を見たいという欲求だった。  三年間も同じ学校に通っていた相手に、今更こんな言葉を当てはめるのはおかしいとわかっていながら、歩美の脳裏に浮かんでいたのは一目惚れという言葉だった。  夕方、彼と並んでラブホテルのベッドに横たわりながら、さっきカフェで覚えたあの感情はうたかたの気の迷いに違いない、となだめるように無言で唱え、あとは身体のだるさに流されるまま、目を閉じて眠りに落ちた。
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