第2話

1/1
前へ
/20ページ
次へ

第2話

「なに?」 「え……、えっと……」  本当に、この窓が開くとは思ってもいなかった。 もちろん開閉可能なことは知っていたけれども、私にとってこれは常に開かれざる窓でしかなかった。 上からじっと見つめられているのに恥ずかしくなって、目線を落とす。 「あ、あのね、今そこの菜園に……」 ガラガラと、校舎の中から扉の開く音が聞こえた。 彼は振り向く。 小さな足音が聞こえて、誰かが何かを話しかけた。 「本間くん。あ、ゴメン。今、ちょっといいかな?」 「……いいよ」 窓から彼の姿は消える。 中の様子は分からない。 私はただ、いつもと変わらない見慣れた校舎の壁を見上げている。 「あ、あのさ……。私、ずっと本間くんのことが好きで……。よかったら、付き合ってください」 「……。うん、分かった。いいよ」 思い出した。 私は動物の死骸を必要としていた。 土とは、岩石の粉や欠片から出来ているんじゃない。 そこに有機物が混ざってこそ、本物の土となる。 つまりそこには、このカラスは必要なものだった。 死んで役に立つのなら、それで本望じゃない?  細かく砕けた岩や砂に、雑菌が住み着き、苔やキノコが生え、植物や動物の死が混じる。 するとやがてそれは、栄養豊富な腐葉土へと変わる。 そうやって出来た土から、花や木はすくすくと育ち、生き物の餌になる。だからいつだって、死体は必要な存在なのだ。 穴を掘った。 カラスを一羽埋めるような穴だ。 簡単に掘れる。 私はその穴をジャガイモ畑ではなく、ツツジの根元に掘った。 校内のこんな場末に植えられた、誰に見られることもないツツジだ。 今が盛りと咲き誇っていても、特段珍しくもないピンクの花だ。 これをここに植えた人間は、何を思ってこんなところに植えたのか。 ツツジはここがどんな場所か意味も分からず、無駄に咲いている。 くるくる高い声で笑う、たった今出来たばかりの彼女の声が聞こえる。 出来たての彼氏は静かにそれに応えた。 真新しい彼女にせがまれて、彼の指が滑り始める。 再び奏で始めたピアノを背景に、私はまた草を摘む。 大きくて立派なジャガイモが育つようにと、願いを込めて。 だって、もうすぐ世界は滅ぶんだよ? 何したって、意味なくない?
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加