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銃口の中には天使と悪魔が住んでいる。どちらが見えるかで死後行く場所がわかる。
今回の標的は若い夫婦。
父親は組織専属の会計士だが横領の事実が明るみにでた。
依頼内容は一家皆殺し、見せしめもかねている。
「撃たないでくれ!」
無視して引鉄を引いた。
一瞬だった。
命乞いする夫婦の脳天に38口径の風穴があく。リボルバー銃の銃口から手向けの硝煙が上がる。
自らに訪れた突然の死が信じられず愕然と目を剥いたまま、虚脱した緩慢さで後ろに倒れていく。
首の脈をとれば両方とも事切れていた。
さて、どうしたものか。気が重い後始末が残っている。
「あ……ぁあ……」
両親の間で震える幼い少年。
「母さん、父さん」
物言わぬ母親に縋り付き、息絶えた父親を揺さぶり、舌足らずに起きて起きてとせがむ。
床を踏んで最後の標的に近付く。
片手のリボルバーを持ち上げる。少年の顔に銃口を狙い定め、引鉄に指をかける。
しかし、彼は思いがけぬ反応をした。
瞬きもせず食い入るように銃口を凝視し、笑ったのだ。
紛れもない安堵の微笑み。
諦観でも達観でもない、救われた表情。
銃口の中に何か見たのか。
気が変わった。
銃を下ろして懐にしまい、改めて正面に跪く。
「一緒にくるか」
私には子供がいない。妻は男の子を欲しがっている。
「衣食住に不自由はさせない。成人するまで守り育てる」
一歩間違えば身を滅ぼすとわかっているのに、口は止まらない。
夫婦には他に身寄りがない。
少年は孤児院に送られる。
「お前が1人でも生きていけるように鍛え上げる」
「父さんと母さんを殺したくせに」
「仕事でね」
「お金欲しさに殺したの」
「働かなければ食べていけない。殺しは稼業だ」
あどけない顔に純粋な憎悪が爆ぜる。
「決めるのはお前だ。一緒に来るか、ここで死ぬか」
幼子に酷な選択を迫っている自覚はあるが、他にどうしようもない。
次の瞬間、毅然と顔を上げて彼は頷いた。
殺意と復讐心が滾る目で、私を睨み付けて。
「なんていうんだ」
最愛の父母に授かった名前を、重苦しく吐き出す。音楽のような響き。
「いい名だな」
少年の目は終始潤んでいたが、涙は一粒も落とさない。
そして彼は、私の息子になった。
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