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銃は不発だ。 おかしい、全弾詰めたのに。 『死ぬべきでない人間に銃を向けると天使が踏ん張って通せんぼする、だから殺せないんだ、絶対に』 「もういちどだアンジェロ!」 駄目だった。一発目で心が折れていた。銃を投げ捨てるやその場に(くずお)れ、縋るように聞いてくる。 「銃口を覗くと自分の行き着く先がわかるんだろ?何が見えた?」 銃口の中にはアンジェロがいた。 まだ死ぬなと、そういうのか。 こんなに殺してきたのに、まだ生きろというのか。 絶句して膝を付いたところに這い寄り、アンジェロが掠れた声を絞り出す。 「誰にも言ってなかったけど、本当は一度だけ見えたんだ。あんたに銃口を向けられた時、暗闇の中で優しそうな女の人が笑ってた。天使様みたいだった」 それが誰か今ならわかる、妻と引き合わされたアンジェロはとても驚いていた。 「(つい)でにあんたも」 銃を向けられた瞬間一度死に、生まれ変わるなら。 「私は悪魔に見えたか?」 こみ上げるものを押さえて聞けば、アンジェロがあきれた顔で笑い、言った。 「父さんみたいな顔してた」 泣き笑いに似て表情を崩したアンジェロが私を引き立て、切羽詰まって懇願する。 「あんたが惨めに老いぼれてどうか殺してくれって泣き付いてきたらざまあみろって撃ってやるから、残り一生付き合えよ」 瞼に熱を感じて瞠目する。 重々しく(うべな)い、息子を抱き締め返す私の脳裏は、銃口の奥の闇に最後に浮かんだ、今より遥かに大人びて立派に成長した息子の面影で占められていた。 銃口の中には()てしない闇があるだけ。 天使も悪魔もいない。 ただ、まれに優しい幻が見えることがある。 たまさかの幻が運命を変えることも、ないとは言えない。 銃口の中には天使と悪魔がいる。
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