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「校内の風紀を乱す者は許してはおけませんし、新入生の安全も守ります。当然でしょう」  こちらに向けられた手のひらに、魔力が集積していくのを感じる。わざとゆっくり集められていく魔力。おかげでタイミングは計りやすい。 (3、2、1……)  ちょうど魔力が溜まりきる一瞬前に、私は大きく息を吸った。 「クライス、助けて!」  叫ぶと同時に、風紀委員の青年――クライスの魔力が声を目印に私の中に流れ込んでくる。懐かしさよりもうわめっちゃ強くなってる! という驚きを先に感じながら、私は流れ込んだ魔力を解放した。 「ななななんだ!?!?!? うおわああああ!?!?!?」  膨れあがる魔力に慌てふためいた男子学生は、仲間たちと共に対処を考える暇もなく私を中心に巻き起こった魔力の嵐に吹っ飛ばされた。  思った以上にでかい衝撃にさらされてよろめいた私を、すぐに誰かが肩を抱いて支えてくれる。  誰か……考えるまでもなく、男子学生たちを吹っ飛ばした風紀委員のクライスくんだけど。 「申し訳ありません。少々力を込めすぎました。お怪我はありませんか?」  一瞬で距離を詰めたクライスは、左手で私の肩を抱いたまま、ほうほうの体で逃げだす男子学生たちに氷の矢を放っていく。余りにも情け容赦がない。野次馬の学生たちから「さすが風紀委員長」「魔道士科主席の実力」「氷の魔王」とかいう不穏な褒め言葉が漏れ聞こえてくる。 「お怪我はないけど……やり過ぎじゃ?」 「バリアバリア」「死ぬぅ」「お助けぇ」などと叫びながらなんとか降りそそぐ氷の矢を凌いで逃げていく男子学生たちに、私はほんの少しだけ同情を覚えた。 「大丈夫です。手加減はしています」 「そりゃしてなかったら死人が出てるだろうけど……」 「私は新入生を保護します。あなた方は捕縛を!」  クライスの指示に、さっきまでクライスの側に控えていた品行方正そうな学生たちが「はい! 委員長!」と叫んでぱっと行動を開始した。あとはもう、学生同士の大捕物だ。さっきまで人質がいるせいか緊張感のあったギャラリーも、完全に野次馬モードになって声援を飛ばしている。  ついでに視線が痛い。肩を抱かれたままの私に、好奇の視線がめちゃくちゃ突き刺さってくる。 「く、クライス先輩? そろそろ放してもらえると」 「まずは保健室ですね。お連れしますよ」  うわ、無視しやがった! それどころか、クライスはひょいと私を横抱きにして大股で歩き始める。 「怪我してないよ!? 歩けますが!?」 「だからです。逃げられては困りますので」  はたから見れば、それはさぞかし愛想の良い笑顔に見えたことだろう。でも至近距離で目が合ってしまった私には、私のかつての護衛騎士候補であり、現風紀委員長にして魔道士科主席のクライスウェルト・アル・シルヴェスティアの、七年分の怒りと怨念が見えてしまったのだった。
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