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 説明が遅れたけど、聖女っていうのは勇者として選ばれた人と一緒に、いつか封印が解けて現れると言われている魔王を再度封印する役目を負った、なんか特殊な魔力を持った人間のことを指す。  って言っても、ここ百年くらい魔王が現れた記録はないんだけど、それはおいといても魔物を浄化する力はあるもんだから、聖女の力があるとわかった子どもは神殿に引き取られて、めっちゃ厳しい修行を積みながら大事に守られて育つのだ。    私も例外じゃなかった。修行に明け暮れる日々を、年の近いクライスと過ごすことができたのは幸運だったと思う。  もちろんクライス以外に大人の護衛もいたから、私たちは聖女とその護衛って言うよりは、そう、やっぱり幼馴染みって表現の方がしっくりくる。  一緒に修行して、たまに修行をサボって抜け出して二人でこってり絞られたり。自由時間にままごとしたり。  私なんかよりよっぽどかわいかったクライスはいつもお母さん役だった。私もクライスも、本当のお母さんがどんなものか全然わかってなかったけど。  思い出補正もあるけど、今考えても楽しい子ども時代だった。最初の頃は言葉もほとんどわからなくてずっと強張った表情をしていたクライスも、だんだん打ち解けてきて、最後の方は二人でバカなことしてゲラゲラ笑い合ったりもしてたんだよね。  ずっとそんな日が続くと思ってた。  いつかうっかり魔王が現れても、クライスが一緒なら全然ヨユーでしょ、って思ってた。  でも、そうはならなかった。  七年前のあの日。  私たちは大人の護衛たちと一緒に魔物退治に出かけて。  そして、負けたのだ。    いつも厳しくて怖かった護衛騎士隊長が、最後の一人になっても戦い続けていた彼が、私を庇って倒れた瞬間を覚えている。間髪入れずに迫ってきた、恐ろしい魔物の血に汚れた爪が風を切る音も。  身体に食い込んだ爪に、痛みより先に熱い、と感じたことも。  地に倒れ伏したままそれを見ていたクライスの、獣みたいな叫び声も。  気がついたら、私は魔物たちと大人たちの血溜まりの中で、縋るみたいにクライスを抱きしめていた。  その血なまぐさい場所で元型をとどめているいきものは、私とクライスだけだった。  意識のないクライスの、血の気を失って真っ白になった顔を見つめながら、私はつよくつよく思っていた。  誰にも知られちゃいけない、と。  私を守ってくれたこのひとが。  大事な大事な幼馴染みが。  魔王の生まれ変わりだ、なんて。
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