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3.
保健室に入ったクライスは、私を椅子に座らせてその前に跪いた。それでやっと目線の高さが同じくらいになる。
保健室には、他に誰もいなかった。
「それで、これまでいったいどこに行方をくらましていたのです?」
めちゃくちゃ真剣な瞳が、納得するまで解放しないぞという決意に満ちていた。
いや、聖女の魔力が漏れないように修行中は外との連絡断ってたけど、今はもう隠す気ないからね?
「常闇の森エーデルフィオルにいました!」
「なぜそのようなところに」
「製本師の修行のためだよ! 見てこれ!」
あからさまに不審そうな顔をするクライスに、私はふところから取り出した生徒手帳を突きつける。その一ページ目には、魔法で写し取った私の似姿と名前、生年月日、そしてクラス名が書かれていた。
「付与魔術師科……特待生」
私が指差したクラス名とその後ろにつく文字を、クライスは素直に読み上げる。
「そう! 修行の成果! ほめていいんだぞ!」
「なるほど。……よくがんばりましたね」
クライスはふっと目元を和らげて、私の頭にふわっと手を置いた。でもすぐにその手は離れて行ってしまう。
そして浮かべていた微笑は、痛みを堪えるような沈痛な面持ちに取って代わった。そんな顔をして跪いたまま恭しく頭を垂れるものだから、私はめちゃくちゃいたたまれない気持ちになる。
「我が君、貴方を守り切ることができず、申し訳ありませんでした」
「いやいやいやいやいやいや。そんなかしこまられても困りますが!? むしろ……クライスがいなかったら私も生きてない……し?」
「私は何もできませんでした」
雰囲気が沈痛すぎてつらくなってきた。しかし助けられたのは私です! と主張したらクライスが魔王の生まれ変わりであることをゲロらなきゃならなくなってしまう。それはダメだ。ダメだダメだ。絶対に。そんなの聞いたら絶対今以上に思い詰めてしまう。
っていうか怒ってるの私にじゃなくて自分にだったか~! やだ~! 自責の念が強い元護衛とかヤダ~! どうしたらいいんだこの空気!
内心全力でジタバタする私を置いて、クライスはさらに思い詰めた顔をしている。勘弁して欲しい。
「今度こそ、守り抜いてみせます」
「いや、私もう聖女じゃないんですが!? ただの庶民に護衛はいら、な……」
言ってる途中でこれはヤバいと気付いて口をつぐむが、時既に遅しってやつだった。クライスが死にそうな顔になっている。というかだんだん俯いていくから前髪に隠れて顔が見えなくなりそうやめて。
私はクライスの両肩に手を置いて、こっちを見ろというように顔を上げさせた。
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