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「う、動くな……!」  私の首筋にナイフを突きつけた男子学生が、震える声で目の前の青年を威嚇する。私の周囲には、彼の仲間らしい数人の覆面をした学生も立っていて、簡単には逃げ出せそうにない。 「この新入生の命が惜しければ今すぐ生徒会長を呼べ! お前たち風紀委員になど用はない! 今日こそは認めてもらうぞ! 我々征服部を、正式な部活として……!」  彼らと対峙するのは、数人の品行方正そうな学生たち。その中でも先頭に立って威嚇を受けた青年は、つくりものじみた白皙の美貌にうっすらと笑みを浮かべて冷たいアイスブルーの瞳で男子学生を見返した。  落ち着き払った物腰の青年を、人質に取られた新入生こと私アリアーナ・フェリセットはじっと観察する。一言でいえば、ものすごい美形だ。おまけに背が高い。たぶんやや小柄な私よりは優に頭一つ半くらい高い。にょきにょき伸びやがってとても羨ましい。  長身の青年は、銀糸の上から青を塗り重ねたような金属光沢のある長い髪を一つに束ね、クリュスタルス魔法学園の制服を入学前に配られた学生手帳に書かれていた規則通りきっちり着込んでいた。野次馬している周囲の学生はほとんど略式のケープを着ているところに正装のマントで来ているところもなかなか性格が出ているし、シミ一つない白い手袋もこう、ああわかる~って感じ。さらに青いメタルフレームの眼鏡が冷たい美貌に知的な印象と威圧感をプラスしている。  そして極めつけは、その左腕に巻かれた腕章。そこに書かれた「風紀委員」の文字。 「ご自分の立場がわかっていらっしゃらないようですね」  低く落ち着いた、しかし滑舌が良いせいか発声がしっかりしているからかやたらよく通る声が冷たく告げる。 「おとなしく彼女を解放すれば、実力行使は控えて差し上げますよ」  自分が脅されているわけでもないのに、思わず「うわ、こわ……」というつぶやきが漏れてしまった。その声が聞こえたのか、青銀髪の青年はぴくりとほんの一瞬だけ視線をこちらに向ける。不機嫌そうな青い瞳が、「わかってるんでしょうね」と言いたげに私を射抜いた。  視線に射すくめられた私は、「わかってるよぉ」という気持ちを込めてへらっと笑ってみせる。 「こっ、こいつがどうなってもいいのか!?」  動揺を見せない推定風紀委員(どう見ても伊達や酔狂で偽の腕章を付けてくるタイプではないのでほぼ確定だけど)に、脅迫者の方が動揺してしまっている。対称的に落ち着き払った風紀委員の青年は、すっと音もなく右手をこちらに差し伸べた。
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