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Prologue
"出会わなければ、よかった"
という、言葉が頭に浮かんでしまう。
"出会えたからこそ、今がある"
という、ただしい答えが、口からもれる。
潮の香りと、波の音が響いている。
雨は、しとしとと降り続いていた。
人の男が、傘もささずに、パーカーのフードだけでその場に立ちつくしていた。
33年の時を超えた物語が、再び始まる。
ただし、その結末は、誰にもわからない。
出会えたことが、その結末だから。
晩夏の夜の中に、古ぼけた白いセダンがパーキングに停まっていた。
ハザードランプがやけにデカく存在をアピールしていた。
リアに置かれた、スピーカーのインジケーターがうっすらと光っていた。
ナンバープレートの支局の後の番号は2桁だ。
忘れ去られた昭和の時代のナンバーだ。
男のいる場所、空間だけが時代に取り残されたように見えた。
男は、雨の中 煙草に火を付けた。
紫煙が低く吐き出された。
苦く、甘い思い出がよみがえってきた。
チェック柄のシャッツワンピースと赤いミュールとワンレングスの女性の姿が、見えた気がした。
男は、目を細めて、その姿を実体化しようとしたが、それは無理だった。
それは、遠い過去に、置いてきてしまったものだったから・・・
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