The taste of the memory (懐かしい味)

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The taste of the memory (懐かしい味)

深い、深い 意識中 声が聞こえる。 体の感覚はない。 語りかけるような声。 どこかで聞いた声。 時間や場所の感覚はない。 優しいそして、とても悲しくつらい感覚。 それでも、恐怖はない。 ふわふわと浮いたような感覚。 母親のお腹の中にいるような感覚。 英美里は、目をさました。 頬に涙が流れていた。 いつもの夢は、ずっと過去に向かってさかのぼっている。 風景や匂いまの感覚まで残っている。 でも、ナイトメアではない。 夢を見るのが、楽しみなくらいだ。 恋をしている感覚に近い。 夢の中で、会うあの人と過ごしている時間は、とても心地よい。 そう思えていた日々だった。 だけれども、今日の夢は違っていた。 自分の声が出せなかった。 風景が見えなかった。 声は聞こえるのに、体を動かすことも、声を出すことすらできなかった。 そして、この日以来、夢を見ることはなかった。 恋して人に逢えない。 英美里にとって、初めての感覚。 自分でもどうしようもなかった。 携帯を手に取ると、ストラップの鈴がなった。 英美里は、この前、古着屋で買ったチェック柄のシャッワンピースに着替えた。 玄関でには、ちょこんとオープントゥの赤いミュールサンダルがあった。 サンダルに足をいれて、玄関のドアを開けた。 ツクツクボウシが泣いている。夏も終わり近づいている。 国道まで、出るとすぐにパスが来た。 太陽はまだ朝の時間の位置にいた。 バス停まで歩くと、すぐバスは来た。 整理券を取ると、座席に座り窓の外を眺めた。 駅を過ぎると教会が見えた。 アーケードの入り口のバス停で降りると、足が自然と山手のほうに向いた。 鈴の音が聞こえた。 音のする方を見ると神社の鳥居が見えた。 上り坂を登っていくと、立派な神社が現れた。 朱色の神殿の中では、白拍子の巫女が鈴を持って舞を舞っていた。 祝詞が厳かに流れていた。 英美里は、目をつぶって鈴の音を聞いていた。 七五三鈴のきょらかな音が、周り空間を浄化しているように思えた。 夢の中の記憶がよみがえってきた。 けばけばしいネオンに、大音量のアップテンポの音楽。 整髪料の匂い。 英美里は、はっとした。 タイムトラベルではないけれども、自分が別の世界にいたような気がした。 神社を離れて、さらに山手に上っていくと、錆びれた宿屋がポツンポツンとあった。 とても古い建物で、戦前から立っているものらしかった。 知らないはずなのに、何故か迷いもせずに細い道を歩いた。 自分が自分でない感覚の中いた。 既視感でもなく、その場所にいたという感覚だった。 少し疲れたので、なんとなく休め添えなところがないか、探していると、この町並みにはマッチしそうもないカフェの看板が目についた。 ドアを開くと、カウベルがなった。 L字のカウンターに、レコード会社のマスコットの犬がいたりと異空間が漂っていた 「いらっしゃいませ」 と蝶ネクタイにイートインコートの白髪の男性が声をかけてきた 英美里は、カウンターに座ると、周りを見回した。 マスターは、英美里の前に水の入ったグラスを置くと、すこし驚いた顔した。  「お客さん、こっちの人」 と不思議そうな質問をした.  英美里は  「いいえ、こっちじゃありません」  と返した。  「知り合いがいるとか」 とマスターは、英美里の顔をまじまじと見ながらいった。  「いいえ、佐世保は初めてです。」  「そう、変なことを聞いてごめんね。知り合いの女の子にとても似ていたから」  とマスターは、頭を下げた。  「何を注文されますか」  「オムライスできますか」  「かしこまりました」  英美里は、違和感を覚えた。夏の昼間を歩いてきたのにいきなり、口から出たのは、"オムライス"だった。それも、メニューも見ずにだ。  ほどなくして、昔の洋食屋さんでてくるような赤い毛チップののった三日月のオムライスだ。 スプーンですくって口に入れると懐かしい味がよみがえってきた。 少し薄暗いて広い場所のカウンターで食べた記憶がよみがえった。 自然と涙があふれてきた。 英美里の異変に気付いたのか、マスターが声をかけてきた  「なにか、ありました。味がおかしいとか」  英美里は首をふって  「食べたことないのに、とても懐かしい味がして、・・・この味を覚えているみたいな」  マスターは、ストーンと何かが落ちたような顔で  「やっぱりな、これは店に出したことがないものだよ。もっとも昔、趣味みたいに作っていたことがあるけれども。食ったことがあるのは、ほんの数人だ」  といってまじまじと英美里の顔を見た。  「不思議なことも、あるもんだ。真理愛そっくり顔で、あいつが着ていた服を着て現れるなんて、最初は幽霊化と思ったよ。おまけにメニュー内オムレツなんてな。あんた、真理愛の娘だろ」 をちマスターは言った。 「真理愛さん、娘 どういうことですか」 と英美里は聞き返した。 「自分の母親のことは知らないのかい」 とマスターは言った後、大きなため息をついた 「そっか、知ってるわけないよな。生んですぐに里子にだしたんだし、それでも、あんたは、真理愛のことを知ってここに来たんだろ」 英美里は首をゆっくりと降った。  「まさか、何にもしらないのか、それじゃ―どうして佐世保に」  と驚いたマスターは慌てた。  「俺の勘違いかな、ただあんまりに真理愛に似ていたから、ついあんたが真理愛を探しに来た娘だと思ってしまって、すまない。」  とマスターは深々と頭を下げた。 英美里は、おしぼりで涙を拭くと  「私にもわかりません。ただ私は、養子だということはしっています。本当の両親のことは何もしりません。ここに来たのは、なんとなくです。・・・あの、その真理愛さんの写真とかありますか」 と英美里は言った。 マスターは、後ろの棚から一枚の色の薄くなった写真をだした。 「右端に映っているのが、真理愛だ」 英美里は、写真を手に取るとまじまじと見た。 そには、同じような髪形で服装の自分が映っていた。 英美里は、口に手を当てた。 声も出なかった。 「他人の空似にしちゃ似すぎている。それにその髪型、服装 真理愛そのものだ」 とマスターは驚愕を隠せずに声が震えていた。  「あんたが、里子であれば、話のつじつまはあう。だが、どうして 佐世保にきた。誰も教えてなければこれるはずがない」  英美里は、コップの水を飲み干すとマスターにこれまで自分が見てきた夢の話をした。 マスターは英美里の話を聞きながら青ざめていった。 すべてのつじつまはあっていた。 夢の符号はすべて一致していた。 コーラーもハンバーガーも、そして、マスターが真理愛のために店の厨房で作っていたオムライスも。  「信じられない。そんなことがあり得るなんて。だが、最後に見たあんたの夢は、俺もしらないことだ。唯一知っているのは、真理愛が心底惚れたあいつだけだ。」  「やっぱり、母はこの街にいるんですよね」 と期待を込めた英美里の問いに、マスターは力なく首を振った 英美里は肩を落とした。 わずかな期待だったが、母が生きていると願っていた。  「20年も以上前に、病気で死んだよ」  「じゃ、私が見た夢は何ですか」 と英美里は、マスターに少し強く問いただした。  「俺もわからない。でも真理愛はあの時、とても幸せの中にいたんだ。それはあんたの夢の話を聞けばわかる。辛かったことは、みせていない。きっと、あんたに伝えいことがあったから、夢にあらわれたんたど思う」  「そうですか、では、夢の中で合った人は父ですか」  「いや、そうじゃないだろう。あんたの父親は、誰だかわからないんだ。あの時の状況では・・」 といって、マスターは口をつぐんだ。  「あの時代は、女が一人で生きていくには、優しい時代ではなかったんだ。それは察してくれ」 というと下をむいた。 泣いているようだった。 英美里も聞いてはいけない事を聞いたような気がして 目の前のオムレツを勢いよく食べた。 食べ終えると  「やっぱり ケッチャプがきついよ ボーイ長」 英美里は、泣きながらいった。
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