君を待つ

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 固く冷たい床で眠るのには苦労したけれど、目が覚めるとすっかり日が落ちて、部屋は真っ暗になっていた。  相変わらず、水滴の垂れる音がする。 まだ彼は帰ってきていないらしい。  尿意に襲われて、仕方なく私は檻の端で用を足した。 檻の中が刺激臭に包まれる。  彼は私を叱るだろうか。 それとも、「仕方ないね」と言って、またあの笑顔を見せるのだろうか。  檻の中には何も無い。 暗闇の中、ガラスを叩きながら彼のことを考えた。  私の中で、彼が大きくなってゆく。 彼の寝息を聞いて安心したかった。  おしっこの臭いがしつこく私に付き纏う。 惨めな私にはお似合いだ。  ガラスを叩くのに疲れ、食べかけのパンを頬張った。 この質素なパンだけが、私の寂しさを埋めてくれた。  この何も無い場所で、一人でいるのはストレスだった。 早く帰ってきてほしい。  彼が帰宅したのは、深夜零時過ぎだった。  彼は「ただいま」と言って電気を点けた。 私は眩しくて、目を(つむ)る。 「寂しかったかい? 酷い臭いだね」  そう言って、彼は笑った。 本当にむかつく。  彼は檻を開けると、私を外へ出した。  あまりにすんなりと出すものだから、しばらく檻の前できょとんとしていたけれど、我に返って走り出す。  今しかない。 外に出れば、きっと彼も諦めてくれる。  けれどすぐに捕まって、頭を強く押さえつけられた。 「逃げんなよ、殺すぞ」  私は押さえつけられたまま、何か注射を打たれた。 全身が弛緩(ちかん)して、動けなくなってゆく。  どうしよう、怖い。
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