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『ご乗車ありがとうございました。品川、品川です』
千葉県は房総半島で一カ月の新入社員研修を経てから、初めて東京で迎える週末金曜日。
この春共に上京した、親友の中田とお酒を嗜むために、僕は初めて品川駅を訪れていた。
「品川駅、大きい」
東京に住み着いてかれこれ一週間。
最寄り駅の平井駅と、会社のある錦糸町駅の往復以外に鉄道を使用する機会がなく、まだ本当の東京の規模を感じたことがなかった僕は、おもわずつぶやいていた。
十四番線という、地元にはおおよそ存在しない名のついたホームを上り、改札へと向かう。
『お客様にお知らせです。ただいま、浜松町駅で発生しました、人身事故の影響で、山手線外回り、京浜東北線が運転見合わせとなっております。大崎、渋谷方面へお急ぎの方は大井町駅から他社線をご利用ください。振替輸送を実施しております』
ひとまず中央改札を出場した僕であったが、品川駅を攻略できるほどのスキルはなく、中田の言っていた集合場所、新幹線きっぷ売り場の場所が分からず、ウロウロしながら立ち尽くしていた。
『プルルルルルルル プルルルルルルル プルルル ツー。ツー。』
学生時代は2コール以内に出ることでお馴染みの中田をもってしても、社会人というものは忙しいのだろうか。中田は電話に出られなかった。
中田に集合場所を聞けないのなら、新幹線きっぷ売り場の場所を改札の駅員さんに聞こう、とするも、運転見合わせの影響か、数多の人々が列を成しており、とても聞きに行ける雰囲気ではなかった。
『新幹線、特急列車の乗車券をご購入の方はこちらの券売機でご購入いただけます』
『新作のガムを配布しています。どうぞお取りください』
『本日、屋台出店最終日となっております。三年連続星4.0をいただいている、当店のショコラはいかがでしょうか』
『駅構内は禁煙となっています。お煙草は所定の喫煙所にてお吸いになってください』
『明日の東京の天気です。今日の東京は高温多湿で、過ごしにくい一日でしたが、明日はカラっとした気候となり、過ごしやすいでしょう』
新宿駅や東京駅に比べたら、格落ちであろう品川駅でさえ、地元の駅では耳にしたことがないレベルの喧騒がBGMとして流れていた。
喧騒は忙しなく耳を駆け巡り、視界に広がるのはあたかも一つの群れであるかのように流れていく人垣。
時の流れ方が違うな、と感じる中で、僕は集合場所に何とかありつくため、すがれる人はいないかと、目を凝らしていた。
僕の目にスッと入ってきたのは、水色のTシャツをきて、白い箱を持ったお兄さんたちであった。
『海外の恵まれない子供たちのために、募金のご協力をお願いいたします』
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