共犯

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 うちには父親がいない。ある日母と僕たちを置いて家を出ていったからだ。そういうことにした。妹には何度もそう言い聞かせている。  でも、本当は――。  父親はクソだった。働きもせず、家事をするでもなく、ただ家にいて酒を飲み、母と僕たち兄妹を殴った。  お母さんはどうしてこの人と結婚したのだろう。当時の僕の毎日の疑問だった。  母は強くて優しい人だったから、働いて、家事をして、そして僕たちを男の暴力から守った。  妹と共に母に抱きしめられながら、その壊れそうな肩越しに、人間ではないバケモノを見た。  母は何度もごめんねと僕たちに謝った。  謝るのは僕の方だ。僕には母を守る力がなかった。母はあんなにボロボロだったのに。  けれど僕には絶対の使命があった。僕たちが学校から家に帰り、母が仕事から家に帰ってくるまでの間、妹を守ることだ。  少しでも音を立てればうるさいと、悲鳴を上げればまたうるさいと、バケモノが殴る手は止まらない。  僕は母がいつもそうしてくれるように、バケモノから妹を隠すように抱きしめた。  そうして耐えていれば、そのうちに飽きて手が止まるか、「やめて!」という声と共に母が飛び込んでくるかして、僕の使命はひとまず終わる。
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