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いつも通りの一日
俺の友人に病人がいる。
病名なんて聞いてもわからない。ただ、そう遠くない未来に病魔が彼の体を奪ってしまうことは……。
「よっ。見舞いに来てやったぜ~、感謝しろ」
「頼んでないけど?」
「嬉しいくせに」
「嬉しくないよ」
「元気そうで何よりだ」
「疲れたよ」
「そうは見えないけど?」
「君の目がおかしいんだ」
「そういうことにしといてやる」
ここまでが俺たちの一連のやり取り。これを見舞いに来るたびに言い合う。
「毎日毎日よく飽きないね」
つまり、毎日。
「三日坊主常習犯の名折れだぜ」
「それは折れてもいいと思う」
「だってお前、俺が来ないと寂しくて泣いちゃうだろ?」
「泣かないよ。自意識過剰くん」
「素直になりなって。天邪鬼くん」
こんな調子で軽口が続く。
黄金色の部屋にお前と俺。
この空間が好きだった。
「今日もいい天気な」
「ぼくにとっては眩しすぎる。みて、僕のところは陰になってるんだ。君は光で、僕は影」
「詩人にでもなるのか」
「才能あるかな」
「ねぇよ。それに、お前と分かれているのは俺の望むところじゃないな」
俺は彼に近づいた。光から逃れるように。
「これで、同じだな。お前も俺も、影だ」
彼はふっと眉を下げて笑う。
「そこは光に連れ出す、とかじゃないの?」
「俺はヒーローじゃねぇからな。俺がお前の所に行く方がはやいだろ」
「来なくていいよ。ほら、座りなよ。今日はなんか面白いことあった?」
それからは学校であったことをなんとなく話す。それを彼は楽しそうに聞く。
この時間が俺は好きだった。
「お前がいればもっと楽しいだろうな」
「楽しくないよ。僕はもういい。疲れるから」
「確かに、疲れはするかもな。ま、贅沢も言ってらんねぇか」
~♪~♬♩~~
外で流れる音楽が耳に届く。この地域では六時になると童謡の曲が流れる。
そして、俺はこの鐘の音が嫌いだ。
「……そろそろ、帰る時間だよ」
「そうだな。お前といると時間の流れが速く感じる」
「そんなことないよ」
「俺はそうってだけ。じゃ、また明日な」
「来なくていいよ」
「また、明日」
俺は同じ言葉を繰り返し、その部屋を後にした。
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