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声が聞こえる。この間から。私にしか聞こえないらしい。誰かと一緒に居てもその誰とも違う声、誰にも聞こえていない。
『雨は降らないよ』
雨が降った。
『料理失敗しないよ』
夕飯をつくるときに久しぶりに失敗して全部黒焦げになった。
『転ばないよ』
平らな場所で転んだ。
その声が全部逆のことを言っていることに気付いてからは気を付けるようにしていた。天気なんかはその声が聞こえたらどんな天気予報でもその声と逆の天気になることがわかって便利だ。まあ大概は雨が降らないという声だから傘を持っていくことになって面倒だが。それにそれ以外だって基本的によくないことが起きないとしか言わないし、どんなに気を付けても何故か回避できないから困ることの方が多い。
なんの声なんだろう。どうしていつも反対のことが起きるのだろう。
うそなのだろうか。ふと思う。あの声を発する何かは全部わかっていて、そうして悪いことだけを反対の言葉で伝えてくるのかもしれないと。それが正しかったらすごいうそつきだなと思って少し面白くなる。けれどやっぱり結果的に悪いことしか言わないその声が邪魔だとも思うわけで。
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