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夜中、ふと目を覚ますと、家の中で物音がするのに気づいた。光星が帰ってきて、お風呂にでも入っているのだろう。
枕元に置いてあったスマホを点けると、23:32と表示された。起き上がるとリビングへと出て行く。
キッチンとリビングは暗く、廊下へと続くドアを開けると、やはり洗面所兼脱衣所の灯りが廊下へ流れてきていた。
「お帰りなさい」
脱衣所の入り口で、光星にそう声をかける。
彼はリビングのドアが開いたのに気づいていたらしい。驚いた様子もなく、うん、と頷いて「起こしてごめんな」と言った。
私はううん、と首を振って、廊下をトイレの方へと向かった。
トイレを出て、洗面所の手前で、髪を乾かしている光星のタイミングを計る。
ドライヤーの音が止まって、それを片付ける音がした。私は鏡に向かい合っている彼の後ろへと入っていった。
背後から、彼の身体の前へ両腕を伸ばす。胸の辺りにそっと巻き付けて、背中に顔を付ける。
「今夜なら、できるかもしれない」
そう言ってみる。
すごく直接的な言い方で、内心はとても恥ずかしかった。
でもそれは、嘘ではなかった。出産後、生理周期は安定している。二人目の子どもが欲しいと思えば、こういったことをしなければできないのだから。
たまたま目が覚めたら、こんなタイミングだったのだ。なんと言って誘えばいいのか思いつかなかった。これまで、私から誘ったことなんてなかった。彼がちゃんと察して、行動に移してくれていたから。
ただ出産後は、私の方からその機会を遠ざけていた。
瑛斗は一歳半までおっぱいを欲しがったので、毎日吸われるそこは皮膚が薄くなっていて、手で触られたくなかった。
光星には、そういう期間が終わるまでは、と言ってあった。だから「もう大丈夫だよ」という意味もあった。
彼は一度動きを止めたけど、巻き付けた腕を取って、ゆっくりと振り向いた。
仰向いてその顔を見ると、ちゃんと応じてくれそうに見えた。それで少し背伸びをしてキスをせがんだ。
彼が顔を傾けて、唇を寄せてきた。
久しぶりの甘い口づけだった。それで身体は、ちゃんと彼の感触を覚えていたことが分かった。
私は彼の首に腕を回して、その感触を充分に味わった。単純に嬉しかった。
「分かった。あっちで」
彼はパパから夫の顔になって、私の肩に手を回すと寝室へと促した。
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