162人が本棚に入れています
本棚に追加
1
食べ終わった夕食のお皿を流しに運んでいると、玄関のチャイムが2回続けて鳴った。
「瑛斗、パパ帰ってきたよ」
リビングのジュータンの上で、ミニカーを握って遊んでいた瑛斗にそう教えてあげると、彼はおもちゃを放り出し、慌てて廊下へと向かった。
「ただいま~」
玄関で光星の声がした。
「瑛斗~、待っててくれたのか? ありがとな」
そう言いながら、息子を抱き上げてじゃれているらしく、きゃっきゃと瑛斗のまだ言葉にならない嬉しそうな声が聞こえてくる。
彼を抱いたまま、光星がリビングへと入ってきた。
「お帰りなさい」
「いい匂い。もう、飯食べた?」
「うん、食べたよ。これからお風呂に入るところ」
「分かった、着替えてくる」
一度、息子を降ろして寝室へ行った光星の後を、瑛斗もついていった。きっと遊び相手が帰ってきたと思っているのだ。
そっちに行っても、まだ瑛斗がじゃれついているらしく、何か笑い声が聞こえる。
光星用によそっておいた煮物の鉢をレンジに入れ、ジャーからご飯を盛る。焼いたままフライパンに入れておいた、豚肉の生姜焼きを一度皿にのせ、レンジで温めると、横に茹でたブロッコリーとプチトマトを載せた。
光星は瑛斗を抱いたまま、リビングのソファに戻ってくると、膝の上に座らせて、またくすぐってやってる。
「瑛斗、お風呂いくよ~」と声をかけておいて、自分と2人分の着替えを用意する。
光星から離れたがらない瑛斗を抱きとり、服を脱がせにかかる。
「俺が風呂、入れようか?」
「運転疲れたでしょう? いいよ、ゆっくりご飯食べて」
「そう? じゃあ今日は、次回のアポ取れたからビール呑む」
そんなふうに言って、冷蔵庫に向かう。
今日の光星は、なんだか機嫌が良い。2時間も運転して帰ってきたように見えない。
「良かったね。うまくいったんだね」
「あんなところまで行かせてもらって、お客が一軒も付かなかったら、エリアマネージャー失格だから」
今年の4月に昇進したばかりの彼は、新規のエリア開拓に、以前自分が5年ほど住んでいた町を選んでいた。
それなりに交通費がかかるので、通った分はクライアントを獲得しなければ格好がつかないのだ。
先月は今日より早く帰ってきたけど、成果も上がらなかったようで、運転も疲れた、と言っていた。
「月一じゃなくて、月二回にしてもらうか、土曜日も回らせてもらうか、だな」
「そうなんだ、そんなにうまくいったんだね」
「うん、あの町をターゲットにして良かったよ」
そんな言葉を背中に受けて、瑛斗とお風呂に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!