序章

1/1
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/900ページ

序章

 季節の変わり目は、落ち着かない。  湿り気を帯び始める空気、熱を奪う大きな白い雲、首筋に吹く凍える風。  そして……寒気の中で次第に存在感を増す太陽の温もり。  その小さく不安定な変化は、意識を感覚ごと連れ去ってしまう。  耳に残るのは、一発の銃声。 「……――ッ!」  張り裂けそうな思いと、信じたくない光景。  そして、届かなかった声。  幾度季節を越えれば、記憶は薄れるのだろうか。  見上げる先には漸く見慣れ始めた柔らかな温もりが、確かにあるのに。  心は些細な風に乗り、何度でも舞い戻っていく。  終わりと始まりの、あの二月の朝に。  
/900ページ

最初のコメントを投稿しよう!