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序章
季節の変わり目は、落ち着かない。
湿り気を帯び始める空気、熱を奪う大きな白い雲、首筋に吹く凍える風。
そして……寒気の中で次第に存在感を増す太陽の温もり。
その小さく不安定な変化は、意識を感覚ごと連れ去ってしまう。
耳に残るのは、一発の銃声。
「……――ッ!」
張り裂けそうな思いと、信じたくない光景。
そして、届かなかった声。
幾度季節を越えれば、記憶は薄れるのだろうか。
見上げる先には漸く見慣れ始めた柔らかな温もりが、確かにあるのに。
心は些細な風に乗り、何度でも舞い戻っていく。
終わりと始まりの、あの二月の朝に。
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