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それを聞きながら、奈津子は妙に腑に落ちていた。
秋野がボンボンと高額なものをあっさり買っていくから、とんでもなく予算が潤沢なのかとも思っていたが。
よくよく考えれば、ここは官公庁の一角なのだ。
即ち。予算とは、税金である。
潜入無線を壊して罰金刑をくらった高見といい、これはある意味、当たり前だろうと思えた。
よかった、割と普通のところみたい。
奈津子は妙に安堵しながら、自分も帰り支度をしようと振り返った。
だが、そこには見慣れたロッカーがなかった。
「ん?」
そこにあったのは、壁だった。
正確に言えば、ウールの編み目がしっかり見える壁であった。
「はじめまして、ナツコ」
壁がしゃべった。
奈津子は、おそるおそるだが目線を声が聞こえた上の方へと向けた。
褐色の肌。大きな二重の目。猫の口みたいにくるりんと上がった口元。
よくわからないが、愛嬌がある大男が見下ろしていた。
「あ、どうも……結城奈津子です」
思い切り首を上げると、発言しづらいものだと言うことを、たった今知った。
人生、あらゆる所に学習ポイントがある。
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