vol.3

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 それが事実であれば、松振組の検挙が六本木で行われる事自体、検挙した当の祖対四課ですら直前まで知らされてなかったということになる。 「……気に入らんな」  西尾は、再びメールへ視線を向けた。  目に入るのは、送信日時。  二月一日 午後四時一分。  松振組が検挙されたのと同時刻だった。  発信者は、誰だ。  そして逃げた男は、今どこに居る――――。    夜の帳は、冷気を連れてきた。  震えるような星の瞬きよりも、街に点る灯りはもっと間近な視界を明るくする。  だがそこに温もりが伴うか否かは、別の問題だった。  路地裏を這いずり回るように、遅々として進まない足を引きずるように動く、一人の男がいた。 「はあ……はあ……ちっくしょぉ」  ざり、ざり  痛めた足を無理矢理に前へと動かしながら進む男は、額に汗を滲ませていた。  吐いた息が凍るほどの冷気は、彼には無関係だった。白い息は、表の灯りが届かないその場所では、白く浮かび上がる。 「なんで……こんなことに……」  こんなはずじゃなかった。  俺は、もっと上に行けるはずだったんだ。  あのまま、安藤さんの運転手をしていれば。
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