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ただ毎日、上の人らの顔色うかがって、ヘラヘラ笑ってれば問題なかったはずなんだ。
なのに。
どうして、若頭が、坂口さんが、藤村さんが……組が、警察なんかの手に……。
男は、壁に添えた右の手に握りしめたスマホを見た。真新しく光る液晶画面には、縦に亀裂が大きく入っていた。
「……くそっ」
ずり、ずり、一旦戻った組事務所は警察に包囲されていた。近所の民家の壁から覗き込んでいる所を、警官に呼び止められてしまった。
逃げるしか、なかった。
足は、その時にくじいてしまっていた。
組関係の知人、友人の家を順に回ったが、既に皆連れて行かれた後だった。
家にも帰れない。
手持ちの現金をはたいて、ネットカフェとファーストフード店を回ったが、既に所持金は尽きていた。
進む速度は、遅い。
腹も減っていた。
はあ、はあ、はあ
逃げなきゃ、俺は、関係ない。
捕まるのは……いやだ。
「なんで、くじいたりすんだよ、こういう時に」
男は情けなさそうに、顔を歪めて自らの足首をちらりと見降ろした。最初は大した腫れではなかったけれど、時間が経過するごとに痛みが増していた。
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