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「ん……、おはよ」
微かに腕をずらした隙間から、まつ毛の長い目が姿を見せた。
「朝ご飯、作ろっか。何がいい?」
「いい、そのまま仕事だもん。……それよりさぁ」
応えながら、触れていた女の腕に触れる。
「ん?」
きぬ擦れの音がして、ウェーブのかかった髪が、女の髪に触れる距離まで近づいた。
首の後ろに回る手は、やはり大きい。
「…………」
囁かれた言葉に、女は笑う。
「もう、やだぁ。朝っぱらからー、こうさかくん」
きぬ擦れの音が、笑い声を消していった。
ピピピピッ シュー
恒例の機械音に続いて、ドアが開かれた。
「おはようございまーっす」
「いつも早いね、井原ちゃん」
「お、おはよう。なっちゃんも早いねぇ」
「あーんもう、カール絶対失敗したもん、今日」
にぎやかな声と存在が四人分、一気にオフィスへ流れ込んできた。
先頭を切った茶髪をはじめとして、細身スーツ、毛糸の帽子にくり色ロングカールがぞろぞろと続いた。
「おはよう、ございます」
声に振り向いていた奈津子は、一瞬の間を置いてから挨拶を口にした。
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