vol.4

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 椅子にかけたままで、背後を振り返った奈津子の視界には、四人がそれぞれに独り言だか雑談だか判別の付きにくい会話をしながら、荷物をロッカーにしまっていた。香坂はダウンのポケットからスマホとミンツを出し、高見は黒のコートをハンガーにかけているし、斉藤は誰かの手編みなのか、暖かそうなマフラーを丁寧に畳んでロッカーにしまっている。  秋野は、予想に違わず長く細身のロングブーツを脱いだりブーツキーパーに差したりと忙しい。  エスコードに入局してから、早くも十日。  奈津子にとって、もはや見慣れ始めた光景である。  人間の慣れとは恐ろしい習性だ。  しかも先日、これに加わったメンバーがいる。 「んにゃーぅ」  黒とグレーのシマ猫、名無しのデブである。  気配に目を向ければ、何かよこせと人の足へ前足をちょんちょん、と乗せるのだ。 「あ、いや、さっき井原ちゃんに朝ご飯もらってたじゃない」  駄目だよ、もっと太るよ。  これ以上太ったら、もらい手なんてなくなるよ。  余計なお世話かもしれないが、青菜商店街で捕獲した泥棒猫は、ひとまず一課に住んでいる。  奈津子は、苦笑いで猫に応えた。
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