vol.1

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「ええと。もう一度聞くね、結城奈津子さん。この仕事への志望動機が何かあれば、教えてくれないかな?」  眼鏡にスーツ姿の男が、にこやかに言った。かけられた声に、顔を上げながら、奈津子はわずかに眉をひそめた。  店内奥のテーブルを占拠して早くも一時間。奈津子とこの男は、現在トップの長居客である。 「あの、ですから……私、応募してないんです。そちらの仕事。なんでこうなっちゃったのか、よくわかんないんですけど……」  奈津子は迷惑顔に困惑を加味しながら言った。  黒のリクルートスーツ。白のシャツ。肌色のストッキング、黒の低いヒール。  立派な就職希望者の格好であり、第一印象を重んじる就職面接の場に置いては大変に正しいものだ。  これが、どこかの会社の会議室ならば。  渋谷の混み合う休日午後のカフェには、似つかわしくない。  ふう。  奈津子は気持ち小さめにため息をついた。  テーブルに置かれた自分の履歴書が目に入る。そう、これは就職面接である。いや、はずだった。
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