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「ハア、ハァ、来夢きゅん……今日もエッチだね」
薄暗い部屋の中、一人の中年男がスマホ片手に股間を弄り回す。
即席で建てたプレハブ小屋は雨風をどうにか凌ぐ程度の機能しか無く、そこかしこから隙間風が入ってきては男の体を冷ややかに撫でる。
ここはぽちゃぽちゃ島。東京から遠く離れたこの土地で、男は静かに暮らしていた。
同時期に移住してきた他の住民は、島を管理しているAIから与えられた課題を地道にこなし、ポイントを貯めて立派な一戸建てを手に入れているのだが、男だけは移住当時に支給された粗末なプレハブに住み続けている。
この島では管理AIがすべてを掌握している。AIの指示通りに働けば対価として様々な報酬が得られるのだが、怠惰な男は何一つ達成しようとせず、ひたすらプレハブ小屋に引きこもっていた。
うさぎライフネットというベンチャー企業が打ち出した『無人島移住プラン』。
「豊かな自然に囲まれた無人島で、のんびりまったりスローライフをはじめませんか?」
そんなキャッチコピーを掲げて、無人島への移住をサポートすると呼びかけていた。
都会の生活に疲れた人々にとっては魅惑的に映ったらしい。募集をかければすぐに応募者が殺到する人気プランだった。
男はそのプランを利用し、このぽちゃぽちゃ島へやってきた。
──何故、男が移住を決意したのか。それは数ヶ月前に遡る。
妹夫婦に娘が産まれたのをきっかけに、実家をリフォームして二世帯住宅へ建て直すという計画が持ち上がった。
そのタイミングで、両親から男の社会復帰を促す体で『無人島移住プラン』を提案されたのだった。
実際に家族が男を疎ましいなどと口にしたわけではないが、『無人島移住プラン』のパンフレットを男に差しだした両親の目にははっきりと『厄介』の二文字が浮かんでいた。
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