7. 二人と一匹暮らし、始めました。

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 「あのねっ、私!……明後日の木曜日、お休みなの!」  「え?」  何の脈絡もない私の言葉に、びっくりした顔の修平さんと目が合う。  「もともと予定も何も無くって、時間だけならいくらでもあるの!だから…」  ジッと私を見つめたままの修平さんから頑張って目を逸らさずに続けた。  「頑張って修平さんの好きな料理作るから教えてほしいの!」  「俺の好きな料理を……?」  「うんっ!」  胸の前で握り拳を作って意気込む私を見上げて、不思議そうにしていた修平さんは、少し間を空けてから「ああ、そうか…」と呟いた。それから両手で私の両手の握り拳をそっと包みこんだ。    「ありがとう、杏奈」    修平さんは顔を伏せたままそう言ったから、立っている私には彼がどんな顔をしているのか分からない。  ただ、包み込まれた両手が温かくて心地良い。  でも、異性と手を繋ぐことにすら慣れない私は、すぐに頬が赤くなってしまう。  すると修平さんがゆっくりと顔を上げた。  彼の瞳が揺れている。吸い込まれるようにそこから目が離せない。    「杏奈にリクエストする料理、考えとくね」  そう言って、彼は愛おしいものでも見るかのように瞳を細めるから、私は心臓をギュッと握られたみたいに息が出来なくなる。  声を出すことも身じろぎすることも出来なくて、ただその場に立ちつくした。  そんな私を見上げてくる修平さんの瞳は、(またた)く星のようにとても綺麗だった。  
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