8. 笑顔でいてほしくて、

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***  その日の夕方。  「これでヨシっと!」  キッチンに所狭しと並べんでいる下拵え済みの食材を見て、私は満足しつつ額の汗を拭った。  修平さんにリクエストされたハンバーグは、大きめに丸めてある。あとは彼が帰宅してから焼くだけだ。  他にも数種類の野菜でカラフルサラダ、ミネストローネを作った。  本当はもっとパーティっぽいメニューも加えたかったのだけど、今の私の力量ではこれが精一杯。  実はケーキも用意した。  お誕生日と言えばホールのケーキ。修平さんが甘いものが好きかどうかを聞き忘れたけど、もし苦手だったら明日にでも私が残りを食べればいい。そう思って小さめのホールを買ってきたのだ。  お菓子作りは得意な私。本当はお料理よりもお菓子作りの方が好きなんだけど、瀧沢邸(ここ)にはお菓子作りの道具がない。自宅アパートから持ってこようかとも考えたけど、もし修平さんが甘いものが苦手だったら、恋人でもない私が作ったケーキなんて重たいかも、と思って止めた。  『恋人でもない私』と考えたところで、胸の奥に何か尖った物が刺さったみたいな感じがしたけれど、食事作りに専念するうちにすっかりそのことは忘れてしまった。 
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