8. 笑顔でいてほしくて、

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 自分の状況を理解した途端、体中の血が逆流したみたいに熱くなる。  「ごっ、ごめんっ!」  焦って彼から自分の身を引こうとしたその時、修平さんの左腕がそれを邪魔するように私を引き寄せた。    さっきよりももっと密着した体に、心臓が暴れ出す。  ドクンドクン、と頭の中になり響く鼓動で何も考えられない。  彼の右手で掴まれている腕も、彼の左腕が回された背中も、火傷しそうなくらい熱い。彼の胸にピッタリと張り付いた私の顔は湯気が立ちそうなほどだ。  なんで、こんなことするの?  意味が分からなくて、「なぜ?」という言葉が頭をぐるぐると回っている。  頭が混乱して何も言うことが出来ずにいると、修平さんの体がそっと離れた。  二人の間に隙間が出来た瞬間、私はやっと大きく息を吸うことが出来た。  「あぶないから杏奈は座ってて。俺が水を持ってくるから」  頭の上から聞こえた声は柔らかくて、私は何だか泣きそうになった。    修平さんが持ってきてくれた水を黙って飲んだ。  アルコールのせいなのか、さっきの出来事のせいなのか、なかなか体の中から熱が引いて行かない。  手に持ったグラスから顔を上げられずにいるのは、向かいからの視線をずっと感じているから。  なんで、そんなに見つめるの?  居た堪れなくなった私は、一気にグラスの水を飲み干してから思い切って口を開いた。  「おっ…お水ありがとう!片付けしたら食後にコーヒーを淹れてくるよ……修平さんはゆっくりしててっ!」  「片付けなら俺がするから、杏奈こそもう少し休んでたら?」  「ううん平気!酔い覚ましに少し動きたいから」  「そういうことなら……でも無理はしないようにな」  「うん……」  それらの遣り取りの間、私は一度も修平さんと目を合わせることが出来なかった。
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