8. 笑顔でいてほしくて、

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 照明の明かりを落とすと、ローソクの灯りがゆらゆらと揺れる。  ケーキを挟んだ修平さんとアンジュが、優しい光に照らされている。  「はっぴ、ばーすでー、とぅーゆ~♪」  小さな声で口ずさんだ。  父と母は私が大きくなった今でも、誕生日にはこうして歌ってくれる。  だからケーキのロウソクを見るとこの歌を歌うのは、私にとって至極当たり前のことで―――。  「はいっぴばーすでー、でぃあ、修平さ~ん♪はっぴばーすでー、とぅーゆ~♪」  私の小さな歌声が止まる。  修平さんが息を吸い込んでから、「ふぅっ」と息を吹きかけた。  ケーキの上のロウソクが消えて、辺りが真っ暗になった。    「おめでとう、修平さん」と言いかけた私の頬に、何か温かいものが触れる。    明かりが落ちたばかりで、まだ目が慣れず何も見えない。  アンジュ??  私の頬をくすぐっているそれが、アンジュなのかと思って、彼女の頭を撫でようと手を伸ばした。  アンジュの頭がある辺りを、触れてみる。   予想していたフワッとした感触とそれとは全然違った。    「っ…!!」  私が触れているのは、修平さんの髪だ。  アンジュだと思って気軽に触れてしまった私の手がピタリと止まる。引っ込めることも撫で続けることも出来ずに、彼の頭に乗せたまま―――。
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