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聞こえた音にピタリと動きを止める。
耳をそば立てたけれど、もう何も音はしない。聞こえてくるのは、風が窓を揺するガタガタという音だけ。
空耳だったのかな……。そう思った。でもなんとなく胸がざわざわして、私はベッドから起き上がってそっとドアの方に近づいた。
きっと気のせいだよ……。
心の中でそう呟きながらゆっくりとドアノブを回した。
そっと開いた扉の向こうには、修平さんが立っていた。
思わず目を見開いて息を呑んだ私と、黙ったままの彼。
部屋の境目越しに向かい合った私たちの向こう側で、窓ガラスがカタカタと音を立て続ける。
なんで?どうして?何かあったの?
疑問符が幾つも湧いてくるけど、どれも言葉にはならない。
何も言えずに彼を凝視していると、その瞳がいつもとは違うことに気が付いた。
まるで寂しさを訴える子どもみたいに不安定に揺れている。私の手が無意識に伸びたその時。
「ごめん……」
ポツリと呟いた彼の言葉に、わたしの手が止まった。
「もう寝てると思ってた……」
微笑みながらそう言う彼の声は、いつもの柔らかさはない。
笑っている形を作っている彼の顔。だけど全然笑えてないことに、彼自身は気付いているのかな……。
どうしてそんなに寂しそうな瞳で笑うの?
その瞳を見ているだけで、胸が苦しくなっていく。
伸ばしかけて止まっていた指先で、その頬にそっと触れた。
彼の頬が温かくて、私の指先が冷えていたことを知るけれど、そんなことはどうでも良くて。
私は反射的に思ったままの言葉を口にしていた。
「そんなに寂しそうな目をして笑わないで」
修平さんの瞳が大きく見開かれる。
次の瞬間、私は彼に抱きすくめられていた。
息が詰まるほど苦しいくらいに。
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