8. 笑顔でいてほしくて、

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 聞こえた音にピタリと動きを止める。  耳をそば立てたけれど、もう何も音はしない。聞こえてくるのは、風が窓を揺するガタガタという音だけ。  空耳だったのかな……。そう思った。でもなんとなく胸がざわざわして、私はベッドから起き上がってそっとドアの方に近づいた。  きっと気のせいだよ……。  心の中でそう呟きながらゆっくりとドアノブを回した。  そっと開いた扉の向こうには、修平さんが立っていた。  思わず目を見開いて息を呑んだ私と、黙ったままの彼。  部屋の境目越しに向かい合った私たちの向こう側で、窓ガラスがカタカタと音を立て続ける。  なんで?どうして?何かあったの?  疑問符が幾つも湧いてくるけど、どれも言葉にはならない。  何も言えずに彼を凝視していると、その瞳がいつもとは違うことに気が付いた。  まるで寂しさを訴える子どもみたいに不安定に揺れている。私の手が無意識に伸びたその時。  「ごめん……」    ポツリと呟いた彼の言葉に、わたしの手が止まった。  「もう寝てると思ってた……」  微笑みながらそう言う彼の声は、いつもの柔らかさはない。  笑っている形を作っている彼の顔。だけど全然笑えてないことに、彼自身は気付いているのかな……。  どうしてそんなに寂しそうな瞳で笑うの?  その瞳を見ているだけで、胸が苦しくなっていく。  伸ばしかけて止まっていた指先で、その頬にそっと触れた。  彼の頬が温かくて、私の指先が冷えていたことを知るけれど、そんなことはどうでも良くて。  私は反射的に思ったままの言葉を口にしていた。  「そんなに寂しそうな目をして笑わないで」  修平さんの瞳が大きく見開かれる。  次の瞬間、私は彼に抱きすくめられていた。  息が詰まるほど苦しいくらいに。
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