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それは『抱擁』というよりも、『縋りつく』という方が近い。
私は息苦しさをこらえつつ、彼の体にそっと両腕を回した。彼の背中がピクリと小さく震える。そのままゆっくりと、広い背中をそっとそっと撫でた。興奮している獣を宥めるように。
それをしばらく続けていると、彼の体からフッと力が抜けてた。
「―――ごめん」
少し間が空いた後、修平さんが小さな声で呟いた。
私の背中で組んだ両腕は、緩く私を囲っているだけだ。
「ううん……」
いつもだったら修平さんにこんな風にされたら冷静でいられないのに、今はなぜだか頭の中が研ぎ澄まされている。
「……に、…だけ……まを……かな」
頭の後ろ辺りでかすかに聞こえた声。ちゃんと聞き取れずに、「何……?ごめんなさい、聞こえなくて……」と訊き返す。
すると少し間を置いたあと、彼は言った。
今度はハッキリと聞き取れる声で。
「誕生日の最後に、ひとつだけ我がままを言ってもいいかな……」
遠慮気味にそう言われた私は、少し戸惑ってから「うん」と頷いた。
けれど修平さんはそれから少しの間黙っていた。その間も両腕で私を囲ったまま、離れようとはしない。
意を決したように息を吸い込む音が頭の上で聞こえると、私の耳元で低く掠れた声が囁いた。
「今日は朝まで一緒にいてほしい」
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