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彼の手を握ったままベッドの前で立ち尽くしていると、その手を修平さんが反対側の手で触れた。
途端、傍目にも分かるほどの勢いで肩が跳ねあがった。
その反動で、私の瞳からポロリと滴が床に落ちる。
「杏奈……座ろう」
修平さんは繋いだ手を引いて、私をベッドサイドに座らせた。
私の隣に彼も腰を下ろす。その重みでベッドが少したわんだだけで、私の体はいっそう固く強張った。
並んでベッドに座る私たちに、また沈黙が訪れる。
さっきまでの勢いはとうに無くなって、私はこの沈黙を破ることは出来ない。ただ膝の上にある両手を硬く握りしめているだけ。
「―――ごめん」
静寂を打ち破ったのは今度は修平さんだった。
肩が触れ合うか合わないか、ギリギリの距離に座っている彼の声は小さくても良く聞こえる。その声はさっきほどは弱々しくはない。
「杏奈を怖がらせたいわけじゃないんだ」
恐る恐る顔を斜め上に向けて、彼の方を見た。
真摯な瞳が私を見下ろしている。
彼の瞳は奥まで澄んでいて、星屑を刷いたように煌めいていた。
もし彼の瞳の中に少しでも普段と違う『欲』が見えたなら、私は彼の『我がまま』を承諾しなかったと思う。
彼はただ困ったように眉を下げていて、やっぱりどこか寂しげに映った。
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