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「しゅう…へい…さん……」
震える声で名前を呼ぶと、彼は恐る恐る、壊れ物に触れるようにそっと私を抱き寄せた。
反射的に身を固くしてしまう。
「おびえないで……杏奈の嫌がることは絶対にしないから」
そう耳元で囁いた彼の声は、少し掠れていて。
その腕はまるで宝物を守り抱くようにふわりと優しい。
私は少しだけ体の力を抜くと、そっと彼の胸に額をつけた。
すると、彼の体からも力が抜けるのを感じた。
もしかして、修平さんも緊張していたの……?
そう思いながら、じっと彼の腕に囲まれていた。
そうしているうちに、ピッタリとくっついている彼の胸から、少し早い鼓動の音が聞こえてきた。
まぶたを閉じてその規則正しい音を聞きながら彼の温もりに包まれていると、段々と思考がぼんやりとしてきた。朝早くから一日ずっと動きっぱなしだった私の体には、もうこれ以上起きている余力は残っていない。
眠りの波にさらわれて意識を完全に手放す直前、温かいものが耳元をくすぐって額に触れた気がした。
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