9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 今日まで二十九年間生きてきて、女性との付き合いもそれなりにあった。  そのほとんどが相手からアプローチされて、自分の気持ちと時間が合えば付き合う、という感じのもの。  俺は自分の空間や時間に他人が入ってくるのがあまり好きではない。多分ペースを乱されるのが嫌なんだと思う。  中には長く付き合った人もいたけれど、それでも自分のペースを崩すような付き合いはしなかった。  あくまで『自分は自分、相手は相手』  お互いが独立した関係と距離を保てることを、俺は相手に求めていた。  まあ、それで相手に去られることもあったけれど、特に引き止めたり悔んだりすることは今まで一度もない。  だけど杏奈にはそれとは全然違う。  これまで感じたことのない想いが、次々と湧いてくる。初めから自分の内側に入れてしまっているみたいだ。  それが何故だか自分でもよく分かっていない。  ただ、彼女が愛しくて守りたくて。  彼女がこぼす涙は全部俺が拭ってやりたい。  彼女を悲しませるもの全てを取り除きたい。  目が合えば自然と笑顔になるし、下から見上げられると、吸い寄せられるように口づけたくなる。  近寄れば、抱き寄せて腕の中に閉じ込めて、どこにも行かせたくない。    そんな俺に杏奈はいつも赤くなって戸惑った反応を見せるが、正直その姿すら可愛くて堪らない。  正直言って、こんな自分に俺自身が一番戸惑っている。  俺ってこんなタイプじゃ無かったはずなんだけどな……。  杏奈を胸に抱えたまま溜め息をそっとついた。  
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