9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 俺の腕の中の杏奈を見下ろすと、すやすやと寝息をたてている。  彼女は俺と出会ったのは、一週間前の『自転車パンク』の時だと思っているに違いない。  でも本当はそうじゃなかった。  彼女の寝顔を見ながら、ちょうど一年前のことを思い返した。 ――――――――――――――― ―――――――――― ―――――    「桜、もう散ってしまったな……」  休日の夕暮れ時、アンジュといつもの河川敷をのんびりと歩いていた。  ちょうど一年前、祖母が他界した。  桜の花が散り終えるのを見届けてからだったのは、彼女が何より桜の花が好きだったからだろう。    そんな祖母は、いつだったか桜の花を眺めながらうっとりとこんなことを言った。  『願わくは花の下にて春死なむ…ああ、素敵ねぇ……』  『縁起でもないこと言わないで欲しいよ』  うっかり本気で焦った俺がそうぼやくと、祖母は『ふふふ、修平のお嫁さんを見るまでは死なないわよ』といたずらそうな顔で笑うから、『じゃあ、しばらくは大丈夫か』と言い返してやった。  『まあ!』と呆れた声を出した祖母と顔を見合わせて笑い合ったのが、昨日のことのようだ。  穏やかで優しくて、ちょっといたずら好きな面もある祖母のことが、俺は幼少の頃から大好きで、暇を見つけてはこの家に遊びに来ていた。  父母のいる実家は少し遠くで、祖母とは別々に住んでいた。  祖父が亡くなって以降、一人で暮らす祖母のことがずっと気がかりだった俺は、大学卒業後、市内で伯父のやっている会社を手伝うことになったのを機に、祖母の家に住むことにした。  祖母と一緒に住み始めてからは、入社したばかりで仕事を覚えること必死な中、将来を見据えて家をバリアフリーに改装することにした。  とにかく忙しい日々だった。  
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