9. 好きにならないわけないだろう?――Side修平

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 そんなある日、祖母が一匹の焦げ茶色の子犬を抱えて帰ってきた。  『祖母ちゃん、なにそれ……』  『あら、修平。見れば分かるでしょ?仔犬よ』  『や、そうじゃなくてさ、』  『フラットコーテットレトリバーっていうらしいわ。お友達のおうちで生まれたから、一匹うちで飼うことにしたの』  ニコニコと嬉しそうに微笑みながら言う祖母の腕の中で、仔犬にしては大きな体のそいつが丸い目をキラキラさせて俺を見ている。  『そいつ、大分大きくなりそうだけど……祖母ちゃんに散歩とか出来るの?』  『あら、散歩は修平の担当でしょう?私は主に食事と躾かしら』  サラリ、と言われて目が点になった。  流石に犬を飼うなら一言相談くらいして欲しかったと、ちょっと不満に思った俺は無言でソファーに腰を落とした。  背もたれに寄りかかって『は~』と深い息を吐くと、俺の足元を何かが触った。  パッと目を遣ると、さっきの仔犬が俺の足先をクンクンと嗅いでいる。  『あら?早速ご挨拶してるのね、アンジュ』  『アンジュ?』  『そう。その子の名前はアンジュ。女の子よ。あなたと同じ四月十二日に生まれたから、漢字で書くとしたら「杏樹」なんだけど、「我が家の天使」って意味も込めてカタカナで「アンジュ」にしたの』  『俺と同じ誕生日……』  『そうよ。だから誕生花は杏の花。素敵でしょ?』
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